雨の降り始めの匂いには名前があった!ノスタルジックな匂いの正体は?

雨の降り始めの匂いには名前があった!ノスタルジックな匂いの正体は?

子供の頃は、家の周りにたくさん自然があったり、夏休みに帰省した祖父母の田舎で、雨が降った後に、何かいつもと違う感覚を受けたことはありませんか?なにか、こう“におい”が違うという感じです。ふと、子供の頃に昔の思い出が頭に浮かんで、ノスタルジックになったとき、その“におい”も一緒に蘇っくることがあります。

雨の匂いの原因


何故、雨の後にある種の“におい”を感じるのでしょうか?皆さんは、ペトリコールという言葉を聞いたことがあるでしょうか?ペトリコールの語源は、ギリシャ語から来ています。ギリシャ語で、ペトラとは岩を現す意味です。
イコルは、ギリシャ神話において、神の血の中に流れていたものという意味を指します。その造語が、ペトリコールだと言われています。
ペトリコールという名前が使われるようになったのは、1960年代で、鉱物学者のJoy Bear とRG Thomas という研究者によるものです。

雨の匂いの原因のペトリコールとは


雨が降り始める前の“におい“とされるのがペトリコールです。

これは本来、岩から出ているものではありません。これは、植物が出す脂肪酸のようなものによるものです。
そもそも、植物は、雨が降らない期間が続くと、土の中で脂肪酸のようなものを出して、周りの植物の芽がでないようにします。この脂肪酸は、パルミチン酸やステアリン酸などと言えば、わかる方もいると思います。
それにより、周りの水分の消費量を減らし、水分摂取を抑えようとします。
その状態が、湿度が80%以上になると、鉄分と反応して、脂肪酸が空気中に放出され、ある種の”におい“が、雨の降り始める前に発生します。

この現象は、科学的な研究もおこなわれていて、納得のいく研究が2015年にとしてマサチューセッツ工科大学のグループによって報告されています。
 
参照:Aerosol generation by raindrop impact on soil

これによると、雨粒が地面や植物に衝突するときに、その衝突によって小さな粒子を含んだ気泡が放出されることをハイスピードカメラによって捉えることに成功したのです。この気泡は、また、エアロゾルとも呼ばれ、このエアロゾルが、まだ雨の降っていない場所で、特定の匂いの元を閉じ込めて、風に運ばれることで、まだ雨の降っていない場所で雨の”におい“を発生しているのではと考えられています。
このため、私たちは、まだ雨の降っていない場所で、雨の”におい“を感知するのかもしれません。

この他にも、ペトリコールの原因と考えられているものがあります、それは、環境汚染などでも聞いたことがある人も多いと思いますが、オゾンです。オゾンは酸素と化学式が似ています。それが、雷などの影響をうけて、さらに酸素分子が加わって、O3、つまりオゾンに変わるのです。オゾンは、さわやかな匂いのもとで、これがペトリコールにすがすがしい匂いを与えていると考えられています。そして、雨が降ることにより、その”におい“であるペトリコールが洗い流されてしまいます。

雨上がりの匂いは?


それに対して、雨が降った後にも、また違った“におい”が発生します。これは、草木にいるバクテリアなどの土壌細菌や、水中に存在する放射菌や藍藻類などが出すゲオスミンと呼ばれる化学物質によるものです。この種の“におい”は、かび臭い感じがするようで、この匂いは、湿気の高い場所ほど、より強い匂いがするようです。先ほども述べましたが、これは、雨が降ることで、ゲオスミンが空気中に広がるため、雨の後に感じる“におい”を発生します。

このように、雨が降る前と後では、実は違ったかたちの“におい”の元が発生していたのです。それを私達は知らず知らずのうちに頭の中に、雨のイメージとともに記憶しているのです。

雨の匂いが懐かしいと感じるのはなぜ?


このように、“におい”からある特定の記憶が呼び起こされる現象をプルースト効果と呼ばれています。

プルースト効果という名前は、マルセル・プルーストが書いた小説「失われた時を求めて」に中で出てくる、マドレーヌを紅茶に浸したときの“におい”がキッカケとなって記憶がよみがえったことから来ています。

これは、自分の経験ですが、同じように私も、カレーのにおいを嗅ぐと、子供の頃に長く住んでいた家の玄関を思い出します。というのも、母親が良くカレーを作っていて、家の玄関のドアを開けると、パッと匂ってきた状況と玄関のイメージが強くリンクしたのだと思います。

これまで私たちが漠然と認識していた、あの雨の”におい”は、自然が起こす現象であって、都会で生まれ育った人にはあまりなじみがないかもしれませんね。

アスファルトで囲まれた都会では、ペトリコールを発生させるための土壌もなければ、ゲオスミンを発生させる微生物などもあまり多くないですからね。
そういった意味では、自然の恩恵を受けていた昔の記憶と言えるかもしれませんね。

まとめ

雨のある種の匂いは、雨が降る前と後で違う匂いで、その原因も異なります。

まず、雨が降る前は、ペトリコールという油のような化学物質が、エアロゾルによって、散布され、それが雨によって洗い流されるため、雨が降ると匂いが止まります。
次に、雨が降った後は、土壌細菌などによって出されるゲオスミンが空気中に広がることで、また違う“におい”が発生します。

この雨の“におい”は、私たちの頭の中で記憶と結びついていつまでも残されています。それをプルースト効果といいます。
プルースト効果についてはこちらの記事をご覧ください。
 

 
参考
Aerosol generation by raindrop impact on soil. Young Soo Jung et al., Nature Communications 6; 6083 (2015)

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豊川弘治

University of Idaho Ph.D in 2016 神戸大学自然科学研究科博士課程前期課程終了 2001年 2012年より、アメリカ国内の製薬関連企業でサイエンティストとして勤務。

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